石田町に新しくアーティストの製作拠点「iki base」が7月7日にオープンしました。
元民宿の別館をリノベーションし、(※1)アーティスト・イン・レジデンスやアーティストの作品制作・発表の場所として活用していき、アートが地域を活性化させていくという新しい取り組みとなっています。
7月20日と21日にレセプションとオープニングイベントが開催されたので、取材に伺いました。
Part1ではレセプションの様子を、Part2ではアーティスト・徳永昭夫さんのインタビューを紹介していきます。
石田町には3つの海水浴場が隣接しており、シーズンには多くの観光客が海水浴やマリンスポーツを楽しんでいます。「iki base」はその内の1つ大浜海水浴場から徒歩5分の場所にあります。周囲は田んぼに囲まれた自然豊かな環境です。
Iki baseの隣はシェアハウスになっており、アーティストはその内の1部屋に滞在し作品制作を行うことが出来ます。
今回のレセプションは、20日・21日の2日間開催され、オープニングイベントとしてFUKUOKA ART NINJYA代表の徳永昭夫さんによる参加型アートのほか、「壱岐のマンホールをデザインしよう!」と題したアート体験ワークショップ、壱岐の新たな交通手段として注目されている電動トゥクトゥク・電動(※2)トライクの試乗、壱岐焼酎蔵と壱岐の食材のペアリングディッシュ、珈琲やハンバーガーの出店などがありました。
Iki base内では、徳永昭夫さんによる参加型アートの展示と「壱岐のマンホールをデザインしよう!」のワークショップが行われていました。
壱岐を訪れるのは初めてだという徳永さん。壱岐の地図をずっと眺めていると、壱岐の島の形が走っている少年に見えてきたそうです。
「実は、ウミナカ(海の中道海浜公園・福岡)で造った、走っている人の形を模した彫刻“風の人”という作品があるのですが、今回のお話をいただいた時にこの作品と風というテーマが頭の中で結びつきました。それで壱岐では少年にしてみようと思ったんです。」
徳永さんはアーティスト・イン・レジデンスとして壱岐に滞在しながら今回の作品を制作し、オープニングイベントで発表しました。この作品は、鑑賞者も参加が出来る仕組みになっています。
中に入ると『風の少年』と題された塗り絵絵本を始めにもらいます。物語は少年が多くの神様といるところから始まり、手に持っているカゴの中にさまざまな物を入れて進んでいきます。参加者は、絵本のラストとして“未来に向かって走る少年が未来に持っていくもの”を描き、会場に設置している少年のパネルに貼り付け完成させます。
▲大人も子供も楽しめる参加型アート。マジックペンやクレヨンなどさまざまな画材がありました。最後にパネルに貼って完成!
「壱岐は食べ物も美味しいし楽しいこともいっぱいありますが、それだけじゃない、見たことも触れたこともない壱岐を、その少年が探しにいったり作ったりというイメージの物語にしました。少年が手に持つカゴは、他のページだと大事なものが入っているのですが、最後のページの“未来の少年”だけカゴの中身が空になっているんです。ワークショップに参加されるお子さんたちに『“未来の風の少年”はその時何を持っていると思いますか?』と尋ね描いてもらっています。そうすることで、壱岐の人たちの未来が作品を通して見えるんじゃないかなと思っています、そしてそれをまた私が勉強して、自分の作品に反映することが出来るという仕掛けにしています。」
今回の体験イベントで「生の壱岐」を感じているという徳永さん。こうした生の体験をアーティストの財産・経験値として蓄積し、次の作品作りに生かしていきたいと話していただいた。
「次にいつ僕が壱岐に来るかっていうのは決まっていないし、次にまた呼ばれるとも限らない。だけど、今回のイベントを通して僕自身が『新しい壱岐のイメージ』を得たと感じたら、自主的に来ると思うし発表もすると思う。そうした継続性を期待しています。いろんな話を聞くとまたイメージが増えていくから、楽しいですね。」
壱岐の新たな拠点としてスタートしたiki base。
今後、この場所を起点にして新しい文化が広がっていくことが楽しみです。
※1アーティスト・イン・レジデンス:
アーティストが一定期間ある地域に滞在し、通常の活動場所とは違う文化や環境で作品制作やリサーチ活動を行うこと。また、アーティストの滞在を支援する事業のこと。
※2 トライク:
3輪バイクのうち、跨がる方式のシートやバータイプのハンドル、さらにはドアがないなど、バイクの構造を踏襲したものを「トライク」と言います。トライクは細分化されており前1輪、後2輪の車両を「トライク」、前輪2輪、後輪1輪を「逆トライク」と呼ぶことがあります。トライクは車体を真上から見るとタイヤが三角形の位置関係で構成されていて、走行する際、カーブで車体やタイヤを傾けることなく走るなどの特徴があります。
Iki base -artist in residence-
IKIBASEは長崎県壱岐市にあるアーティスト・イン・レジデンスの拠点です。
2020年に元民宿の別館だった建物を改装し2021年から運営をスタートさせました。
アーティストにとっては第2の制作・創作の場所となり、地域にとっては、島外からアーティストを迎えることで、新しい視点や壱岐の魅力の再発見となります。
アーティストの制作アトリエとしての機能にプラスし、アートで地域とつながるコミュニテイの場とします。このフリースペースでは、制作活動や、ワークショップ、展示会などを開催し、壱岐の新たな文化発信スポットを目指していきます。
さらに、そのような相互作用で関係人口を増やし地域を活性化していくことを目的とします。
アーティスト・イン・レジデンス
徳永 昭夫
1965年(昭和40年)7月7日福岡県飯塚市生まれ。1988年熊本大学工学部環境建設工学科建築コース卒業。
1989年から1992年までカナダ、ニューヨーク滞在。1992年に自身の初個展、その後のグループ展出品などの活動と並行して、1994年よりミュージアムシティプロジェクト(福岡市)にスタッフとして関わる。以降1999年福岡アジア美術館開館記念交流プログラム(福岡市)、2005年横浜トリエンナーレ2005(横浜市)、2009年ならびに2015年の別府現代芸術フェスティバル混浴温泉世界(大分県別府市)などをはじめ、国内外の美術展、美術イベントの制作、設営多数。2004年以降コンテンポラリーダンス作品に出演ならびに企画制作に携わる。2015年3月 英語通訳案内士取得(第EN00270号)。
シェフ・イン・レジデンス
松本 恵里
1987年、福岡市生まれ。管理栄養士。Jrベジタブルフルーツマイスター。
福岡市のダイニングバーに10年間勤務。3店舗の店長を務める。その間、小説や漫画に登場する料理の再現を中心に、東北地方の料理や中華料理などに注力し、料理教室主催やレシピ提供を行う。新聞や媒体などでのレシピ紹介や、カフェメニューの開発などを手掛ける。また、地域の特産品に興味が深く、加工品を利用した誰でも気軽に作れるレシピの開発を得意とする。 近年では、ヨーロッパで行われている日本文化を広めるイベントに4度参加。ヨーロッパに滞在し日本食の普及活動に携わる。また、現地の日本食レストランにて、ヴィーガンについて学ぶ。現在、フリーランスで、飲食店のメニュー開発、運営のサポートをしている。
Photo by 髙田望