【壱岐島のいちご農家と畜産農家で農業体験をしてきた話(後編)】
午前中にいちご農家さんの元で体験をさせてもらった後、夕方からは畜産農家さんの仕事を体験させてもらった。
移住相談に乗ると、意外にも畜産業に携わっていた方が多いと感じる。
壱岐へ移住をしてきても畜産業に携わりたいという想いは、後継者を欲する地元の生産者にとってはありがたい話だと感じる。
牛舎に入ると当然のことながら、牛がいっぱいいた。
正直にいうと大きな動物は苦手な方で、かなりへっぴり腰な始まりだったと思う。
黒くておおきなつぶらな瞳でこちらを見てくる。
「ねぇ、あんた、ご飯くれるんでしょう?」
まずはトウモロコシや大豆の穀物などを粉末にしてある「濃厚飼料」を飼槽に沿って巻いていく。
すると部屋の中で自由にしていた牛たちが、それを食べに飼槽に沿って並んでいく。
スタンチョンと呼ばれる柵から、牛が顔を出したら、頚部を挟んで安定してつなぎ止める。
その後、円柱状に固まった干し草の塊「粗飼料」を、おおきなフォークで崩していく。
中心に向かってくるくるに巻かれてある干し草を、逆回しにぐるぐると剥がして崩して牛の前に置き、を繰り返す。
「これ、どれだけあげていいんですか?」と聞くと、
「いいよ!どんどんあげて!」と農家さんから返事がきた。
いっぱい食べるのね。体大きいもんね。
作業を始めてみると、どんどん可愛くなってきて、その想いをポロっとこぼしたところ、農家さんからこんな言葉が返ってきた。
「可愛いという気持ちもあるけど、牛は経済動物だから、育てて売ってお金を稼ぐための動物」
ハタから聞いたら、クールだなと思うかもしれないけれど、それはたった1日の体験の自分と、畜産農家として生きている農家さんとの圧倒的な差であると感じた。
数時間お世話をした牛たちも、いつかは競りに出されて島外に行ったり、また新たな命を産むために育てられたり、そして最後には食肉となる。
私はお肉も食べる。
スーパーやお肉屋さんに並ぶお肉は、目の前にいる牛たちからは到底想像がつかない。
「命をいただく」ということは、牧場にいる牛とスーパーに並ぶお肉を切り離して考えるのではなく、同等として捉え、その上でしっかりと手をあわせ、「いただきます」「ごちそうさまでした」を伝えて、自分の血や肉にすることだと再認識させられた。
それに日頃から向き合っている畜産農家さんってすごい。
1日を通して、日頃の作業のたった一部のみだけれど農業体験をさせてもらった。農家さんは季節や天候、いちごや牛の状態に合わせながら、これらの作業もそれ以外の作業も毎日していく。
移住をしてきて、就農するのはハードルが高いのかもしれない。でも今いる現状をガラッと変えて、動植物の命と向き合い、自然と寄り添いながらの仕事は、これからの新しい生き方を提案してくれるものになると思う。
▷お世話になった畜産農家さん
*株式会社 松熊ファーム
*長崎県壱岐市勝本町片山触
photo by Nozomi Takada